

おうち工作をはじめた理由はなんですか??
丹治:僕は料理が大好きで、味噌やアンチョビ、燻製、うどんやラーメンなんかも自分でつくります。買うよりも美味しいし、安いし、自分の好みのものにしていくことができたり、とにかく楽しいんです。
料理や食べ物だけでなく、服や竹のカゴ、子どものおもちゃなんかも、けっこう自分でつくります。
自分で手を動かしてなにかをつくることは楽しい。実際にやってみると、それほど特別な技術が必要なわけではないし、だれにでもできるはずです。あとは、友だちも増えます(笑)。
でも家づくりとなるとさすがにちょっと難しいのでは、という印象があります。
丹治:そう思ってる方が多いんですが、実際はそうでもないんです。
家を作っている現場をよくみると、土を掘ったり、木を切ったり張ったり、雨をよけるために焼いた瓦を並べたり、ペンキを塗ったりと、簡単な作業の積み重ねで大きくなっているだけで、一つ一つの技術は誰でもできることを、どこにでもある材料を組み合わせて作っていることがわかります。
自分で作るものとして、家はいろいろなことができてとても面白いものです。
素人が専門家や職人と同じことをやるのではなく、素人だからこそできる楽しい家を、つくることができると思っていて、それがおうち工作として、これからやっていきたいことです。
例えば、「家のこの壁に棚があったらいいな」というとき、多くの人が、ネットで商品を検索して、サイズもだいたい合ってるものを見つけて、それをポチっと買う、という世の中になっているように思います。
ほんとうに欲しいもの、ぴったりのものがあったら買ってもいいと思うんですが、「ぴったりのものを自分で作ってみよう、やってみよう、やってもいいんだよ!」と言う人がいてもいいのかなと思っています。
自分の好きな棚だったり机だったり、もっと言えばつくりたい家のイメージがなんとなくあったとしても、それをどうつくったらいいのかわからない人も多いと思います。
おうち工作では、つくりたいものがあったとき、その実現をいろいろな形でバックアップしていきたいと思っています。そして、家づくりについても同じように、自分たちで家をつくることはできるよ、ということを実際にやっていきたい、と思っています。
「壁いっぱいの棚づくり」はその第一歩ということですね。
丹治:はい。「壁いっぱいの棚づくり」は、部屋にぴったり合った、壁いっぱいの本棚を、自分でつくる、というプロジェクトです。思っているよりも簡単に大きな本棚ができます。
ホームセンターで安く売っているカフェ板という杉材を使ってつくります。寸法を測って簡単な図面を書いて、ホームセンターでカットして、家で組み立てるだけです。
杉板というのは、日本の気候にあった材料で、水分を吸収放湿してくれます。壁一面を杉材にすることで、室内環境も良くなるかもしれません。塗装をせずにそのまま置いておくので、日当たりによって色がいい感じに変わってきて、だんだんと味も出てくる。柔らかい材料なので、本をひきずった傷もいっぱいできて、それがいい感じになります。棚には本だけでなく、雑貨でも水槽でも、なんでも入れていい。
こんな棚を自分たちで、子供や家族、友だちと一緒につくったら、いろいろな学びがありますし、それ自体が楽しいイベントになると思います。
西伊豆で行った「おうち工作」ワークショップはどんな内容でしたか?
丹治:次号でくわしくレポートしますが、駿河湾の海岸に落ちている流木や流れ着いたものたちを拾って、それを組み合わせて棚をつくる、というワークショップです。
西伊豆にはフランス人の人類学者のヨアンという友人が住んでいるんですが、彼は海に流れ着いたものを使って、たまに近所の友だちに手伝ってもらいつつ、ほぼひとりで家を改修して宿を作りました。
この家がほんとうに素晴らしくて、「おうち工作」のプロジェクトをはじめる大きなひとつのきっかけになったのは、このヨアンの家づくりだったりします。
まずこの家を見学してから、近くの海岸に漂着物を探しにいきました。海に流れ着いたものが棚になるという瞬間を見たい、というのがぼくの狙いでした。
やってみると、やはりとても面白かった。
みんなで拾ってきたものを披露しながら、「これはこうやったら棚になるかも」とか、その場の思いつきで新しいモノが生まれる体験を共有できました。
おうち工作では、家づくりに限らず、つくること全体をもっと自由に、楽しくしていきたいという思いがあるんですが、一つ大事にしているのが、「ブリコラージュ」という考え方です。
フランスの人類学者のレヴィ=ストロースが『野生の思考』という書籍で展開した考えですが、かんたんに言うと、ありあわせの素材を組み合わせて、必要なモノを創る、というやりかたです。
計画して設計する方法ももちろんアリなんですが、ブリコラージュ的なやりかたで、どこにも売っていない、世界で一つしかない、自分にぴったりな面白いもの、これまで計画的につくることではできなかった新しいデザインができます。
つくりたいものがあった場合に、図面を書いて見積もりを立てて、すべての部品を揃えてつくる、という計画的なやりかたではなく、身近にあるものを使って、その場で、即興的に新しい創造をする、というやりかたです。ありあわせでつくる料理と同じです。
計画して設計する方法ももちろんアリなんですが、ブリコラージュ的なやりかたで、どこにも売っていない、世界で一つしかない、自分にぴったりな面白いもの、これまで計画的につくることではできなかった新しいデザインができます。
ただし、ブリコラージュには素材が必要です。使えるか使えないかわからないけど、もしかしたらいつか使えるかもしれないもの、という素材がある程度身の回りにないと、ブリコラージュはできません。
田舎に行くと、ものづくりが好きな人は、そういうストックヤードというか、使えるモノ倉庫みたいなものを持っていたりします。
今回のワークショップでいうと、近くの海岸というのは、そういう「使えるかもしれないもの」がいっぱい流れ着く自然のストックヤードなんだと思います。
おうち工作では、これからどんなことを実現していきたいですか?
丹治:大きな視点でいうと、自分のまわりの環境をどうやったら豊かなものにすることができるか? を考えていきたいと思っています。
いま、家はそもそも高すぎて、それほど簡単には手に入れづらい状況ですし、もし家を購入できても、ローンが何十年も続く、資産価値が下がることを恐れて、白い壁に釘がうてない。そういう状況はちょっとおかしいなと思います。
自分で買った家のはずなのに、ぜんぜん自分のものになっていないんじゃないか、そんな印象があります。
西伊豆のワークショップでは、ヨアンがつくった宿に泊っていたんですが、朝まで雨が降っていて、1階で寝ていても雨の音が聞こえていました。
古い民家なので、家のどこに雨が当たっているか、屋根の角度や雨がぶつかった材料まで感じることができて、家と自分が、身体感覚として繋がっている実感がありました。それはとても気持ちのいい体験だったんです。
むかしの人は、自分の家が傷んでいたり、隙間や不具合があったら、どこをどう直せばいいか、感覚的にわかっていたと思います。直す技術もあったでしょう。
家を自分の身体の一部のようにして、手入れをしながら、自分も家も、楽しく健康に暮らしていくのがいいかなと。そういう皮膚感覚を、わたしたちも自分の住んでいる家に対してとりもどすことができると楽しいなと考えています。
あらためて、「おうち工作」とはなんでしょうか?
丹治:「おうち工作」とはなにか、を一言でいうと、「家をつくる」のは楽しい、ということです。家「で」工作するのではなく、家「を」工作する「おうち工作」を通じて、モノの見方や、意識のありかた、社会の仕組みまでを、ちょっとずつ変えていけたら、いいなと思いってます。