

丹治:「おうち工作」のスタートは、西伊豆ではじめたかった、という思いがありました。ヨアンさんの家づくりもそうだし、親泊さんが運営している小さな港町の集落にある西風荘も、「おうち工作」のインスピレーションのひとつだったからです。西伊豆で、家や暮らしの古いかたちと未来をイメージできたことは、僕にとって大きかった。
親泊さん:そうなんですね。だからかもしれませんが、「おうち工作がやろうとしていることは頭で理解している」と思っていました。でも、実際にワークショップに参加してみて、いろいろなことが腑に落ちました。
「海でモノを拾ってくっつける」というだけで、ものごとの意味が変わることを実感できました。
僕は、海でモノを拾ってくるようなことはあまりしていません。というのも、拾わなくてもモノがたくさん集まってしまうからです。僕やヨアンさんは、地元の人たちから、「モノをもらってくれる人」だと思われているみたいで、いろいろな方が「これ使わない?」といろいろなモノを持ってきてくれるんです(笑)。
家の周りに置く場所もけっこうあるので、なにかに使えるんじゃないか、と思っていろいろなモノを溜め込んでいます。ちょっと多くなりすぎて、最近は「モノを持たない」「モノを減らす」というのがテーマだったり。モノがあんまりたくさんあると、滞っているというか、新しいモノが入ってこない、余白が無いなと感じていて、最近は一生懸命捨てたり燃やしたりしています。
でも今回のワークショップでは、視点を変えることで新しい価値が生まれるということに気づかされました。
古典的には価値は、「自然に働きかけて生まれるもの」と考えられていますが、海でモノを拾ってきて視点を変える、それだけで、新たな価値が立ち上がる感覚がありました。丹治さんが話していたように、商品や消費物として価値が並んでいる世界とまったく違う価値体系が、「使えるかな」と視点を変えるだけで一瞬で生まれたように感じました。とても刺激的でした。
丹治:「なにか使えそうなもの」という視点ではなく、美しさのようなアートを見るような目線で、石や流木を見立てて、別の価値を示す方もいましたね。
親泊さん:自然物の中でも美しいものは、それ自体に価値があると感じますし、それを見つけるだけでもシンプルに嬉しいですね。労働や加工を加えず、見立てだけで美しさが引き出される瞬間がたしかにありました。
見立てとは別に、必要に応じて何かで代用するというのは、誰にでも日常的にある行為だと思います。例えば、山登りに行ってカップラーメンを食べようとしたときに箸を忘れた。じゃあそのあたりにある枝で代用しよう。そんな小さな工夫です。もちろん、町にいたら100円ショップに行けばすぐに済むかもしれませんが。
丹治:自分で選んだ枝で食べるラーメンはちょっと味わいが違うかもしれない。そして食べ終わったらそのへんに捨ててもいい。
親泊さん:あとは、それぞれが海で拾ってきたものに個性やその人らしい視点があって、みんな違っていたところも面白かった。ふだんから海でいいモノを拾うことに慣れているヨアンさんは、僕だったら拾わないようなものを選んでいましたし、木原さんは美しい線のある流木、きれいなものを拾っていましたし、江崎さんの拾った流木にはなにか統一感があった。そういう個性が拾ったモノに見え隠れするところも印象的でしたし、みんなでワイワイと対話をしながら、自分には無かった新しい視点や発想が立ち上がってくるやりとりも、とっても面白かったです。
丹治:たしかに、ひとりでやるよりも、みんなでやったことでいろんな発想や可能性が見えて、いい対話をしているような感覚がありましたね。自分では拾わないものも、触りながら考えているといいアイディアを閃いたりもしましたね。
親泊さん:あとは丹治さんがワークショップの冒頭で話していた「家の身体性」、つまり家の中で雨の音がよく聞こえるとか、雨漏りに気づける感覚、その話もあまり意識したことがなかったですが面白かった。地元のある人が、家の壁の穴をテープでふさいでいて、体に絆創膏を貼るように感じたという話を思い出しました。
丹治:現代の家はどうしても自分の身体から離れてしまいがちです。家を自分の一部のように感じるという身体性を取り戻すことは大事だなあと思います。
親泊さんがいま、自分の家をつくるとしたら、なにが大事になりますか?
親泊さん:生活しやすい家が一番だと思います。そして実際に住む人、使う人が作った家なら、当然使い勝手も良くなると思います。
私の父は建築設計士でしたが、彼が設計した自宅は、住む人の視点に欠けていたところもありました。料理をしない人だったので、母にとってキッチンは使いづらい部分があったようです。
あとは余白が残っていて、いじりやすい家が理想です。昔の家のように、働きかける余白があると、より身体性を感じられると思います。皆さんがよく泊まってくれる西風荘は、70年以上前に港町の大工さんが建てた自宅ですが、そういった余白がけっこうありますね。
そして風が入るとか、日が入るとか、景色がいいとか、自然が家とつながっていることも大事かもしれません。
丹治:自然が家の中に入ってくるようなつながりは、人が気持ちよく生きていく上でとても大切ですね。雨の音や動物の声、西から来る風を感じることができる家、そういう環境は、生活の質を高める大切な要素だと思います。いい経験をありがとうございました。